池田光政の馬具に残る、横向きの蝶。
横向きの蝶が語る、池田家の草創期
泊蝶は、羽を正面から左右対称に広げる蝶とは異なり、横を向いた蝶を表す紋です。林原美術館は、岡山藩主池田家の揚羽蝶のうち、この横向きの形を「泊蝶紋」と呼んでいます。蝶という題材が共通していても、泊蝶と揚羽蝶を、掲載名や向きを無視して一つにまとめることはできません。[1]
同館の2016年の企画展解説では、泊蝶紋は池田光政が隠居するまで使われた、池田家の草創期を象徴する紋と位置付けられています。光政の隠居は1672年。使用時期を考える際には、所蔵機関が示すこの区切りと、人物年譜を合わせて読むことができます。[1][2]
池田光政の鞍に残る、銀の泊蝶
2021年の池田家文庫絵図展「岡山藩と武芸」には、林原美術館の「黒漆塗泊蝶紋鞍」が掲載されています。図録の資料番号は馬具111、林5。江戸時代の一腰で、池田光政所用と解説されています。名前だけの家紋一覧と違い、使用人物、具体的な品、所蔵先まで結び付く実例です。[3]
前輪・後輪の外側は黒い漆の地に銀の泊蝶、内側は金地という仕立てです。縁全体を金属で覆って保護する総覆輪にも銀が使われています。さらに泊蝶紋のある鐙が付属し、鞍と周辺の馬具に紋が繰り返されていたことが分かります。[3]
図録は後輪の内側に残る跡を根拠に、この鞍が実際に使われたと説明しています。家紋は鑑賞のための平面図にとどまらず、人が乗り、動かし、使い続けた道具の表面に残っているのです。[3]
馬櫓・纏・矢筒にもある泊蝶
熊本県立美術館の2021年の出品リストでは、No.10「泊蝶紋銀覆輪鞍」とNo.11「泊蝶紋蒔絵馬櫓」に池田光政所用と明記されています。鞍の時代は桃山時代から江戸時代前期、馬櫓は江戸時代前期。いずれも林原美術館の所蔵品です。馬上の装備を考える資料として、鞍だけでなく馬櫓にもこの紋が使われたことを確認できます。[4]
同じ目録にはNo.14「泊蝶紋纏」、No.16「泊蝶紋螺鈿矢筒」も載り、どちらも江戸時代前期・17世紀の品とされています。この二点の所用者欄には個人名がありません。光政所用と記された馬具と並べて紹介できますが、纏と矢筒まで光政本人の使用品と断定する根拠にはしていません。[4]
図録「岡山藩と武芸」の林2には、黒漆の地に金蒔絵で泊蝶を散らした鞭も紹介されています。こちらは池田利隆所用と伝わる品です。同じ図録の光政の鞍と一緒に読むと、泊蝶が金・銀や漆と組み合わされ、複数の馬具に表されたことが見えてきます。[3]
姫路から鳥取、そして岡山へ
岡山県立図書館の人物解説によれば、光政は姫路藩主池田利隆の嫡子として生まれ、利隆の死後は鳥取藩主となり、1632年に岡山藩主となりました。姫路・鳥取・岡山は、光政の経歴に沿ってつながる土地です。泊蝶と岡山との関係は、光政所用の馬具と林原美術館の解説を重ねることで具体的に説明できます。[2][1]
岡山には、道具だけでなく文書もまとまって残されています。岡山大学附属図書館の池田家文庫は、光政が岡山に入った1632年から1871年の廃藩置県まで、約240年にわたる藩政資料と池田家の蔵書を中心とする資料群です。現物の紋を確かめる林原美術館の所蔵品と、時代・人物をたどる文書資料を往復できる点に、岡山で調べる意味があります。[5]
この平面図で見られる形
本ページの図は、横向きの蝶、扇状に重なる羽、円い斑、巻いた触角という構成を描いた独自の参考図です。林原美術館が説明する泊蝶という名称と、名称図鑑の掲載図を参照し、曲線を一つずつ組み立てました。鞍の写真を切り抜いたものでも、銀の紋の寸法や細部を復元したものでもありません。[1]
名称資料に載る情報
掲載名は「泊蝶」、読みは「とまりちょう」。参照図鑑の分類は「蝶」です。
家紋のいろは「泊蝶」の掲載情報。使用者欄は同図鑑の記載で、史料・所蔵品解説とは根拠が異なります。
- 戦国期の人物(図鑑記載)
- 池田恒興、池田輝政
- 大名・旗本・公家等(図鑑記載)
- 備前岡山藩池田氏の替紋
- 姓氏(図鑑記載)
- 池田
似た名の紋を見比べる
関連名の候補です。同一図柄・同一家系の判定ではありません。解説の出典
- 林原美術館「戦陣に舞う揚羽蝶 ―池田家草創期―」 ↗2016年1月2日~2月14日の終了済み企画展解説 / 所蔵機関による家紋と使用時期の解説
- 岡山県立図書館「池田 光政《おかやま人物往来》」 ↗解題・説明、関連する地域・場所 / 公立図書館の人物解説
- 岡山大学附属図書館・岡山シティミュージアム(共催:林原美術館)「令和3年度 池田家文庫絵図展「岡山藩と武芸」」 ↗印刷19頁(PDF24頁)林5「黒漆塗泊蝶紋鞍」、同頁林2「鞭」 / 実物写真を伴う所蔵品の構造・使用痕の解説
- 熊本県立美術館「絢爛豪華!おかやま・林原美術館展 出品リスト」 ↗PDF1頁、第1章、No.10・11・14・16 / 所蔵品の名称・所用者・時代を記す目録
- 岡山大学附属図書館「池田家文庫」 ↗池田家文庫の内容・成立 / 藩政資料の収蔵機関による案内





